先日の経済性計算セミナーの時、こんな質問をいただいた。
1.リニューアル投資の場合の回収期間と計算方法。
2.リニューアル投資の場合の簿価の扱いと収支への計上方。
なかなかマニアックな質問なので、マニアックに答えますね。
(ちょっと分かりにくいかもしれません)
まず、リニューアルの場合の回収期間は当然に投資規模と範囲に依存する。
1フロアや1ゾーンの5年程度の回収目標であればDCFを用いることもなく単純に回収期間法で十分。
投資額は、テナントとの定期借家契約期間が3年であるからとその期間で回収が求めるのであれば、投資額の限界値は回収可能な範囲に限定される。
回収期間法では設定された期間で回収可能な金額がMAXとなる。
これが数億円単位の投資額で10年程度の回収期間となれば、DCFを使って現在価値を算定する。
ただ、10年先のCIF(キャッシュインフロー)を確定するのは難しいのでそれなりの割引率が必要だ。
(この場合、企業毎のWACCとリスクプレミアムを考慮する)
もっと抜本的な投資を考えるリニューアル投資(十億円単位)になると少し話が変わる。
一番分かりやすいのが「その時点での簿価で土地建物を仮想的に買い入れ、そこに追加投資を乗せて経済性計算を行う」方法だ。
自社物件であっても市場から新規に調達するというあくまで管理会計上の決め事であることに注意。
ここで企業によって、「簿価」ではなく、「市場価格」で買い入れて計算することを求める場合もある。
これも一理ある。
このケースの場合、追加投資するのと売却するのと、どちらが得か、と考えれば市場価格を想定するもの当然である。
ただ、追加投資を考えている物件であるため市場価値がどれほどになるのか、将来のLCCも考慮した物件価値となるだろう。
ここで注意しなければならないのは、そもそも売却することが想定外である場合(売ることが前提に無い場合)、市場価格での買収額を収支計画に求めるがあまりリニューアル投資が制限され、本来、実施しなければならない営業投資が出来なくなり、結果、当該物件の競争力を低させてしまうことだ。
管理会計上の制約とマーケティング的要因、この両面から経営的な判断をすることが出来ない企業には、商業施設経営は向いてないだろう。
ここからは私見になるが、ショッピングセンターや商業施設は定期的な営業的リニューアル投資が必要なビジネスである。
設備劣化や老朽化を修繕することとは異なり、時代のトレンドと共に建物も空間環境も変化させていかなければならない。
この場合のリニューアル投資をどう見るか、である。
この時、毎期の利益剰余金から一定のリニューアル投資額の積み立てを行い、計画的に実施することが望ましいと考える。
建築設備は、少なくとも毎年減価償却額分は劣化する。
これが毎期の利益剰余金を丸々年度の企業決算の利益として計上し、リニューアル投資が必要になった場合は、リニューアル投資にかかる金額をその部分だけで切り離して回収することを求めることになれば、必要な投資が出来ず、社会的劣化を起こし陳腐化が進むことは免れない。
(計画性の薄いビル経営だ)
商業施設のリニューアルには、「売上を上げる」「落ちた売上を戻す」「売上を下げない」の3つの視点(目的)がある。
この3つのシナリオ、すべてに同じ管理会計基準を当てはめるのは乱暴と言うもの。
ここで誤解して欲しくないのは利益圧縮してでもリニューアル投資が必要だ、と言うつもりは無い。
要するに毎月、テナントからいただいている賃料には将来のリニューアルに関する費用が盛り込まれていると言うこと。
現にショッピングセンターの建物賃貸借契約書には必ず「リニューアル条項」が記載されている。
今回の改正民法の「通常損耗は原状回復から外れる」という考え方も通常損耗は当然に賃料に含まれることを主張する。
商業施設は築年数が古くても、しっかりコンセプトを作り、適正な営業投資を行えば立地に相応しい賃料を設定することが出来る。
築〇年という考え方はショッピングセンターの賃料には影響しにくい。
ところが、壁はくすみ、駐車場の手すりは錆び、照明が薄暗く、エスカレーターに異音がする、そんなことでは商業施設としては失格だろう。
財務会計と管理会計とプロジェクト収支。
経済性と成長性
構造劣化とマーケティング劣化。
安定とトレンド。
一見すると二律背反に感じるが目的は一つ。
それは「顧客の支持を得て永く成長していくこと」
そのための会計処理であり、営業施策であり、投資計画であるはず。
手段や手続きに拘るがあまり、目的を見失わないようにしたい。
写真は築39年の商業ビル。リニューアル投資によって年数を感じさせない事例。