シリーズ「改正民法がショッピングセンターのの運営や契約に及ぼす影響」の第7回目は、「賃借物の一部滅失等による賃料の減額等」です。
とりあえず、このテーマに関する改正前と改正後の民法を下記に記載します。
〔改正前〕
(賃借物の一部滅失による賃料の減額請求等)
第611条
1 賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。
2 前項の場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
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【改正後民法】
(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)
第611条
1 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
2 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
この前後を見比べると一目瞭然!
まず、現行法では賃借物が滅失した場合は「賃料の減額を請求が出来る」としていましたが、改正後は特段請求しなくても当然に減額されるとなりました。(当然減額)
そして、現行法では「滅失」だけでしたが、改正後は「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において」と範囲を広げています。
いやー、これは悩ましい。
この条項によってテナントさんから、
「以前からずっと使えなくなってたので過去に遡って賃料を減額してください。」
「入り口付近が使えなくなったので区画のほとんどが使えないのと同じなので大幅に減額されますよね」
「エアコンが壊れたので使用に支障を来したので減額されますよね」
などと非常に判別不能な議論をしなくてはならないかもしれません。
「水道が一時使えなくなった時の賃料減額はいくらか」
「賃貸区画のバックに使用している範囲が雨漏りで使えなくなった時の減額はいくらか」
「滅失した部分の単純な面積比率で減額すれば良いのか」
などなど、議論勃発ですね。
なので、そうならないためにも事前に契約書に細かく決めておく必要が出そうですが、結局のところ具体的にいくら減額されるかは、事実認定の問題なのでケースごとに考えるしかないようです。
契約条文例)
「乙は建物の一部が使用できないような状態にあることを発見した場合には、直ちに甲にその旨を通知し、協議の上で建物の使用が不可能となった割合を決定し、賃料の減額分を算定するものとする。乙が上記を通知しなかった場合には、通知の時点より前までに発生した賃料の減額分は請求できないものとする。」
※出典:2019.4.17改正民法が商業施設・SCへ与える影響について(日本ナレッジセンター主催セミナー)講師:光風法律事務所
(この条文は各社の状況に合わせて顧問弁護士と十分協議してください、もしくはSCに詳しい上記の光風法律事務所へ相談してください。)
この611条の改正には相当いろいろな議論があったようです。
もちろん、不動産業界からはもめることが予想されるこの条項には疑義はあったようですが、そもそも賃料とは使用収益を約して決められるものであって、その使用収益に支障が出れば当然に賃料は減額される、という法理論が優先されたようです。
これは以前にも指摘したことですが、今回の改正民法は、細かく規定したがためにもめることが多くなる気がします。
でも、それは事前に契約でしっかり確認し合う欧米型の契約社会に誘導することを企図しているのではないか、とこの当然減額の条項を見ると特に感じます。