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Vol.156 改正民法が及ぼす影響⑥(敷金の登場)

シリーズ「改正民法がショッピングセンターの運営や建物賃貸借契約に及ぼす影響」の6回目は、いよいよ敷金の登場です。

敷金については、Vol.145で扱いましたが、今回は、もう少し詳細にします。

あまりに馴染みのある敷金。
実は法律にありませんでした。
「ええっ?」ですよね。
でも、本当に法律になかったのです。

そこで、今回の改正民法において次のような敷金の条項が作られます。

改正法第622条の2  敷金
(1) 賃貸人は、敷金(いかなる名義をもってするかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。 

賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。 

賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。

(2) 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。
出典:民法(債権関係)の改正に関する要綱案

この条項での大きなポイントは、
1.敷金を定義付けたこと。
2.敷金の担保範囲を明確化したこと。
3.敷金の返還時期を明確化したこと。
4.賃借権譲渡の場合の返還を明確化したこと。
5.賃貸人の充当関係を明らかにしたこと。
となりますが、これまでの判例法理を明文化したもので、実務への影響は少ないと考えられています。

ただ、これまで法律になかった敷金というものがしっかり定義され、その扱いや返還時期、そして賃借権の譲渡の際の返還義務を明文化したことはショッピングセンターの運営にとっては大きなエポックとなるでしょう。

それではポイントを一つづつ見ていきます。

◆敷金の定義
法文に「いかなる名義をもってするかを問わず」とあるのは、敷金が他のどんな名称であっても法文に記載されている目的であれば敷金ですよ、ということです。

この敷金、意外に会社によって名称が違います。
保証金、営業保証金などといろいろ名称が存在しますが、その性格性質が条文の目的に合致すればすべて敷金として扱われます。

◆契約終了後の返還時期
これまで会社ごとに返還時期を取り決めていましたが、1項(1)アにおいて、「賃貸借の終了かつ物件の返還を受けた時」と明確に規定しています。

◆賃借権譲渡の場合の返還義務
これちょっと分かりにくいですよね。
これは賃借人(テナント)が第3者(別なテナント)に賃借権を譲渡する場合です。 

ショッピングセンター運営の場合、こういったケースの時は、テナントAさんとの現契約を合意解約し、テナントBさんと新たに契約を締結する手続きを取ることが多いですよね。
だから賃借権の譲渡というのはあまり起こらないかと。
私もこれまで経験がありません。

でも、今回のケースは、賃借権の譲渡を賃貸人が承諾するというケースを想定しています。

例えば、テナントAさんがテナントBさんに賃借権を譲渡してテナントBさんに店舗運営を引き継ごうとした場合、当然に賃貸人(オーナー、デベロッパー)の承諾が必要となりますが、仮に、その譲渡を賃貸人(オーナー、デベロッパー)が承諾した場合はどうなるでしょう?
これが条文にある「適法に賃借権を譲り渡した時」と解されます。

では、この時、敷金の扱いはどうなるのでしょう?
現在、敷金はテナントAさんから預かっています。
でも、賃借権がテナントBさんに移動する。
その場合、敷金の扱いをどうするのか、これが今回のポイントです。

今回の改正民法では、賃借人が適法に賃借権を譲り渡したときは返還しなければならないとなります。 

要するにテナントAさんからテナントBさんに賃借権が移動した時は、テナントAさんに敷金は返しなさい、ということです。

「え? そうしたら、その区画の敷金はどうなるの?」ですよね。  

この場合、新たに契約するテナントBさんから改めて敷金をもらわなければなりません。
「えー、そんなめんどくさいし、怖いよ」
とオーナーは考えると思います。

なので、「敷金返還請求権を新賃借人(この場合テナントBさん)に債権譲渡する」という合意(取り交わし)をすることになると考えられます。

この合意のタイミングとしては、賃借権譲渡の承諾をする場合の承諾事項とすることや予め標準契約に記載することも考えられます。 

一般的に賃借権の譲渡は禁止事項となっていると思いますので、そこを改定していくようなイメージです。
この契約書の条項については、記載するタイミングと条文の書き方は顧問弁護士とよく相談してください。

最後に賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。」とは、テナント側から「賃料払えないから敷金から充当してよ」というようなことは言ってはダメですよ、ということです。

これまで、あまりに一般的だった「敷金」が法律に明文化したことは非常に大きな出来事です。
そして、この敷金の扱いについては、
1.賃借権が譲渡された場合(テナントチェンジ)
2.賃貸物件が売却された場合(オーナーチェンジ)
この2つを事象についての取り扱いを明確にしたことも大きいと思います。

このうち、テナントチェンジのケースは、敷金の条項に記載されていますが、オーナーチェンジの場合は別の条項になりますので、次回、解説します。

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株式会社 SC&パートナーズ

代表取締役西山貴仁

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒。

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