シリーズ「改正民法がショッピングセンターのの運営や契約に及ぼす影響」の第5回目は、「賃貸借物件の所有権移転と賃貸人の地位の留保」です。
「賃貸借物件の所有権移転と賃貸人の地位の留保」
普通の人が聞いても「なんのこっちゃ」ですよね。
頑張って解かりやすく解説します。
とりあえず、このテーマに該当する改正民法は次の通りです。
【改正民法】
(不動産賃貸借の対抗力)
第605条
不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。
(不動産の賃貸人たる地位の移転)
第605条の2
1.前条、借地借家法(平成三年法律第九十号)第十条又は第三十一条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。
2.前項の規定にかかわらず、不動産の譲渡人及び譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及びその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しない。この場合において、譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人又はその承継人に移転する。
3.第一項又は前項後段の規定による賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。
4.第一項又は第二項後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、第六百八条の規定による費用の償還に係る債務及び第六百二十二条の二第一項の規定による同項に規定する敷金の返還に係る債務は、譲受人又はその承継人が承継する。
これを読んでも「なんのこっちゃ」は変わりないですが、この条文を読んだとき、今回の改正民法の「時代に合わせる」というコンセプトの中でこの改正がショッピングセンター運営において最も時代を表してると私は感じました。
それは物件の売買や流動化の活発化です。
過去、大型のショッピングセンターをそうやすやすと売ることはありませんでしたし、ましてや流動化と言った概念は金融市場では一般的でも不動産市場はあまり活用されてきませんでした。
ところが2000年の資産流動化法の改正やROAへの関心への高まり、外資系ファンドの登場、老舗企業の経営不振などいろいろな理由が相まって不動産の所有権がいとも簡単に移っていくことが現実のものとなりました。
そうすると何に影響するかと言うと、その売られていく物件で現に営業しているテナントの存在です。
そう、物件の賃借人たるテナントの存在であり、テナントの権利の保全です。
ショッピングセンターが売却されるとテナントさんにしてみれば、突然、オーナーが変わるのです。
テナントさんにとっては「おいおい」ですよね。
ただ、借地借家法31条1項で、「建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。」と規定してあるのでショッピングセンターが売却されてもテナントは新オーナーに賃借権を主張できたし、これからも変わりません。
したがって、新しいオーナーが、「お宅と契約した覚えが無いから出て行ってくれ」と言われてもテナントは大丈夫なわけです。
ただ、これまで(これからも)物件を売却すれば、テナントの賃借権も当然に新オーナーに移転することは変わりませんし、移転登記すれば新オーナーはテナントに賃料請求が出来るわけです。(改正民法第605条の2の1項)
ところが、ここで実務の中で出てきた問題は、他人に売却したけどショッピングセンターをそのまま経営していたいと考えるオーナーの登場です。
とりあえず、キャッシュが欲しいから持っているショッピングセンターを他人に売却するけど、ショッピングセンター経営をそのまま継続したいのでテナントとの契約はそのまま続けたい、と考える人たちが登場したわけです。
ショッピングセンターに従事していると最近、相当多いですよね、このパターン。
この場合、どうするか?
それを今回の改正民法605条の2の2項で規定したのです。
ここでは、
1.旧オーナー(譲渡人)と新オーナー(譲受人)との間でテナントに対する賃貸人の地位を留保する旨の合意(旧オーナーがそのまま貸し続けるという意味)
2.旧オーナー(譲渡人)を賃借人、新オーナー(譲受人)を賃貸人とする建物賃貸借契約の締結
この2つを満足すれば、これまで通り、旧オーナーがショッピングセンターを継続して経営出来るということになります。
これって画期的じゃないですか?
でも、ちょっとここで疑問なのは、このプロセスにテナントの意思は繁栄されないのか?ということです。
テナントにしてみれば知らない間に物件が売られて知らない人がオーナーになり、今のオーナーはその新オーナーから借り受けて、いわば自分たちは転借人の立場になるわけで、ここでも「おいおい」という感じですが、これを実現可能にしたのが今回の改正なのです。
ショッピングセンターが売られて全く知らないオーナーが現れるより、これまでのオーナーが継続して運営にあたるのであれば、その方が望ましいってこともあるかもしれませんね。
これまで、旧オーナーの賃貸人としての地位を万全なものとするためには全テナントの合意を取る必要がありました。
でも、100テナントも200テナントも個別同意を取ることは不可能に近いですよね。
したがって今回の改正は、そんな不可能なことを求めて日本の不動産市場や日本経済が停滞するより、もっとダイナミックに物件を動かす方が時代に合っていると考えたのかもしれません。
ここで疑問なのはテナントさんが収めた(預け入れている)敷金の扱いですね。
これは前回のテナントの借家権譲渡の場合と少し変わります。
ショッピングセンターを旧オーナーから新オーナーに売却した場合は、敷金は新オーナーに引き継がれます。
したがってテナントの敷金の返還請求先は新オーナーとなるわけです。
テナントの賃借権が譲渡した場合は、オーナーは敷金の返還義務が発生しましたが、ここではオーナー側の所有権の移転では敷金の返還義務は発生せず、所有権の移転と共に敷金も移ると言う考え方を取ります。
ただ、賃貸人の地位を旧オーナーが留保し、旧オーナーとテナント契約が継続される場合は、引き続き、賃貸借契約先の旧オーナー(賃貸人)への敷金返還請求権を持つことになります。
この条文において、デベロッパー側は物件の売却の際、引き続きデベロッパーであり続けるのか、テナントは物件が売却される際、誰がショッピングセンターを経営するのか、それぞれ注意する必要があります。
さて、次回は「賃料の当然減額」を解説します。
これはかなり悩ましいです。