SCアンドパートナーズ

Vol.150 改正民法が及ぼす影響③(修繕権)

今日は、改正民法のうち、「賃借人の修繕権」を説明します。

今回の改正民法で賃貸人(オーナー、デベロッパー)が賃貸物件を修繕しない場合、賃借人(テナント)に修繕権があることを明文化されます。

改正民法第606条1項(賃貸人による修繕等)
賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責に帰すべき事由によってその修繕が必要になったときは、この限りではない。

この条文では賃貸人(オーナー、デベロッパー)の修繕義務が明記されます。
そもそも建物賃貸借は賃貸物の使用収益を賃借人(テナント)に認めるわけですからその使用収益が正当に行えない状態になれば賃貸人(オーナー、デベロッパー)が修繕をするのは当たり前。

でも、それが賃借人(テナント)のエラーなどで生じた損傷は修繕する必要は無いですよ、と至極当たり前なことが記載されています。
特にこれはそれほど問題にならないと思いますが、悩ましいのが次の条文です。

改正民法第607条の2(賃借人による修繕等)
賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
ア 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間に必要な修繕をしないとき。
イ 急迫の事情があるとき。

今回、この「賃借人(テナント)の修繕権」が規定されます。
実はこれは大変なことです。
なぜなら、他人の所有物に勝手に手を加えることができるわけですから。
そして、その修繕費を後から賃貸人(オーナー、デベロッパー)に請求できる。
すごいことです。

でも、ここで問題は、
(オーナー側の立場としては)
1.その修繕は本当に必要があるものなのか。
2.必要があっても今しなければならないのか。
3.代替案は無いのか。
4.その修繕費は妥当か。
5.逆にその修繕だけでなく、その他の修繕箇所も同時に行った方が費用対効果は高いのではないか。
6.こういったことが明確にならない前に賃借人が修繕権を行使した場合は、どう対応するのか。

(テナントの立場としては)
1.修繕が必要と思い、賃貸人に通知した後、相当の期間とはどれくらいの期間なのか.
2.オーナーが修繕してくれないとき、勝手に修繕して、その後、修繕費を請求したら支払ってくれるのか。
3.今回の改正民法を下に今後、オーナーから提示される契約書にはどのように記載されるのか。

と、双方に懸念が残る条文ですよね。

ショッピングセンターでは、老朽化した物件はあまり修繕に金をかけずいずれかのタイミングで建て替えを考えているときもあります。
近々、リニューアルの計画があれば、今、不要な修繕費をかけたくないと考える場合もあります。
この場合、テナントが急迫として修繕権を行使したらどうなるのか。

悩ましいですね。

実はこの修繕権の規定は、「任意規定」という判断もあります。
したがって、契約条文で何らかの特約を付けることも考えられます。

今後、建物賃貸借契約書を作成する際、修繕権の行使条件・範囲、費用負担、手続き等についてあらかじめ織り込む必要がありますので、表現方法は顧問弁護士の先生としっかり協議してください。

無用なトラブルにならないように。

今回の改正民法はこういったトラブルの原因になるようなことが多いような気がします。
だからこそ、契約書の存在意義が一層高まってきます。

今回の改正の裏側には、日本の商習慣を欧米型の契約主義に誘導することを企図しているのでは?
と感じています。

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株式会社 SC&パートナーズ

代表取締役西山貴仁

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒。

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