前回、Vol.147改正民法が及ぼす影響①では、建物賃貸借契約に特にインパクトを及ぼす6つのポイントを挙げました。
今回はまず「個人の連帯保証」について解説します。
(結構、難しいです)
今回の改正のポイントは次の3つです。
ポイント1:個人根保証契約の極度額
ポイント2:債務者から連帯保証人への情報提供義務
ポイント3:債権者から連帯保証人への情報提供義務
これを見ると分かりますが、今回の改正は連帯保証人を保護しようというコンセプトのようです。
一般的にショッピングセンターに出店するテナントさんに信用不安がある場合、連帯保証として保証人を丙として契約書に捺印してもらっていますよね。多くの場合、契約する企業の社長さんの個人保証とすることが多いです。
その場合、下記のような条文で保証人を規定していませんか。
「丙(連帯保証人)は本契約に基づく乙(賃貸人・テナント・出店者)の甲(賃貸人・オーナー・デベロッパー)に対する一切の債務について、乙と連帯して債務の履行する責を負うものとする」
実は、この条文は改正民法では「無効!」になります。
ええっ!
でも、この条項を読むと保証人の保証限度額が青天井でどこまで保証するのか分からないですよね。
これでは安易に保証人になるの怖くないですか?
そこで改正民法では、個人が保証人になる場合は、保証の限度額を定めよう!となりました。
それが極度額です。
以下に新しい民法の条文を記載します。
改正民法 第465条の2
(個人根保証契約の保証人の責任等)
一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
3 第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、個人根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。
なんだか、難しくてよく分かりませんが、
1項に「極度額を限度として責任を負う」とありますね。
今後はここで決められた限度で保証すれば良いことになります。
そして、2項に「極度額を定めなければその効力を生じない」とありますね。
だから、これまでの条文はこの極度額を定めていないので無効!となってしまうのです。
でも、1項に「法人でないもの」とあるように個人が対象になることにも注意です。
個人の保証人を守るためにこの他にもいくつか規制されました。
まず、保証契約後に加わった(上乗せになった)債務は保証の対象からは外れるようです。(もちろん、保証人が合意して覚え書きでも交わせば別でしょうけど)
次に債務者(賃借人・テナント)からの連帯保証人の情報提供義務です。
改正民法 第465条の10
(契約締結時の情報の提供義務)
主たる債務者は、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、委託を受ける者に対し、次に掲げる事項に関する情報を提供しなければならない。
一 財産及び収支の状況
二 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
三 主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容
2 主たる債務者が前項各号に掲げる事項に関して情報を提供せず、又は事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし、それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合において、主たる債務者がその事項に関して情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り又は知ることができたときは、保証人は、保証契約を取り消すことができる。
3 前二項の規定は、保証をする者が法人である場合には、適用しない。
上記の条文のように主たる債務者(テナント)は連帯保証人をお願いする時は、しっかりと情報提供しなさい、と記載されています。
情報を提供しなかったり、誤った理解をするようでは保証契約は取り消されますよ、です。
保証をお願いするテナントさんはしっかりと説明しなければならなくなりました。
加えて、下記の条文にあるように債権者(オーナー・デベロッパー)も連帯保証人から聞かれたらしっかりと情報公開をしなければなりません。
改正民法 第458条の2
(主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務)
保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。
でも、テナントの個人情報などに踏み込みそうな内容を連帯保証人にむやみに話すことははばかれますね。
でも、これからは必要最低限の情報はしっかりと伝えることも大切な責任になります。
これも個人の連帯保証人を保護しようと言う表れですね。
では、このルールはいつから適用されるのか?
2020年4月1日以降に新たに契約するものはもちろん適用になります。
ただ、これまで契約してて自動更新する普通借家契約のようなものはそのまま契約は有効となるようです。
難しいのは、今までの契約していたものを2020年4月1日以降に締結し直すものの扱いが今ひとつグレーなようです。
そして建物賃貸借契約を結び直しても保証契約が省略されてしまっている場合とか。
この取り扱いは、皆さんの顧問弁護士と十分に協議してください。
改正民法における連帯保証に関する新しい契約条項案も十分に顧問弁護士と協議してくださいね。
一応、ひな形みたいなものはありますが、ここでは差し控えます。
とにかく、これまでの条文では「無効」になってしまいますので注意!です。
では、次回は、「賃借人の修繕権」について解説します。
これがまた結構、悩ましい改正です。