ショッピングセンター(SC)の新規開業やリニューアルのプレスリリースには、決まって「初出店」「新業態」「1号店」といった言葉が躍る。
こうした“新規性”を強調することは、新規顧客の開拓につながるため、長年にわたりSCの常套手段となってきた。
しかし、人口構造や購買行動が変化しつつある今、求められるのは「リピート率」向上を見据えた戦略である。
本稿ではこれからのSCの営業戦略の針路を探る。
SCは顧客をどのようにとらえているか
SCの顧客は理論上、「潜在」「見込み」「健在」「離反」など多層的に細分化できる。
来店頻度で見れば「一度も来たことがない人」「たまに来る人」「一度だけで離れた人」「毎週通う常連」など切り口は無数にある。
ところが実務の現場では、販促ターゲットは「新規客」と「既存客」の2つの区分に単純化せざるを得ない。
理由は明快だ。館内に1万人の来館者がいても、その内訳をリアルタイムで識別する術がない。
入館カウンターが把握できるのは総数のみで、KPIも入館者数やテナント売上という粗い指標にとどまる。
来館者の年齢・職業・来店動機、そして「誰が何をいくらで買ったか」までは追跡できない。
この情報制約が、SCのマーケティングを大雑把な2区分に押し込める要因となっている。
新規客を追い求めてきたSC運営
こうした制約の中で長年重視されてきたのが、“新規性”を打ち出すことだ。
「初出店」や「1号店」「新業態」といった言葉で新しさをアピールする手法は、ショッピングセンター(SC)の集客施策において中心的な役割を担ってきた。
そのねらいは来店経験のない潜在顧客を動かし、新規客として取り込むことにある。
これまで施設に足を運ばなかった消費者は、既存テナントに魅力を感じなかったか、訪れるきっかけがなかっただけだ。
そこに話題性の高い店舗がSCに加わることで、「一度行ってみよう」という動機が生まれる。
副次的に、既存客へも目新しさを提供し、顧客ロイヤルティ向上を促すが、最大の効果はやはり新規客の獲得にあると言える。
こうした戦略が成立した背景には、高度経済成長期からバブル期にかけての人口増加と旺盛な消費意欲、世帯人数の拡大、流行への追随意識、情報不足などの環境要因があった。
当時のテナントリーシング担当者は「差別化された面白いもの」を誘致すれば社内で高い評価を得られた。
人口増と消費拡大を前提に新規客獲得で商圏を広げることが、SCの成長モデルの王道だったのである。
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