人は「得したい」か「損したくない」か、どちらかを選ぶとしたら「損したくない」を選ぶ。
その先に好条件が待っているとわかっても、動かず現状を維持する。
逆に、悪くなると感じていても現状を変えず、これまでのことを繰り返す。
「いやいや、このままで大丈夫」と自分に言い聞かせて動くことを避ける。
いわゆる「茹でガエル」状態だ。
今、ショッピングセンター(SC)は、この「現状維持バイアス」にとらわれ、50年以上同じことを繰り返している。
今回は、このリスクをテーマにする。
百貨店の衰退は現状維持バイアス
近年、地方では百貨店の閉店が続いている。
都市部ではインバウンド景気で潤う店舗もあるが、国内消費分としてはマイナス成長であり、インバウンド消費の増加によって前年実績を超えているにすぎない。
一方、地方ではこうしたインバウンド消費の恩恵は受けづらい。
さらに、現在多くの百貨店は、外資系コスメやハイブランドを導入して大衆百貨店から上質・高単価化にシフトしているが、国内人口が減少し年金生活者が増加しているため、地方百貨店ほどこの戦略は効きにくい。
それでも百貨店業界は、高度成長期に隆盛を誇り「小売の雄」と称された既存モデルを、全国で今も継続している。
その典型例がフロア構成(図表1)だ。
図表1 百貨店のフロア構成 |
|
8階 |
催事場・食堂 |
7階 |
家具・寝具・家庭洋品 |
6階 |
子供服 |
5階 |
紳士服・スポーツ用品 |
4階 |
婦人服(ミセス) |
3階 |
婦人服(ミス・ミッシー) |
2階 |
婦人服(ヤングキャリア) |
1階 |
コスメ・ラグジュアリー |
B1 |
食料品 |
多層階で、性別やアイテムごとに区分されたフロアを設け、各階で買い物することを主軸とした売場構成である。
「小売だから当たり前じゃないか」と批判を受けそうだが、都市部に比べ、郊外にショッピングセンター(SC)が多数立地した車社会の地方圏では、中心市街地の高層建物を訪れるモチベーションは低い。
また、小売であることから、商品や什器を収納する倉庫やバックヤードが大きくなることで不動産効率は低下する。
さらに、人材管理の面では、バイヤー、販促、物流といった役割が複数に分かれ、雇用リスクが発生する。
売上高が右肩上がりで成長する時代は、これらのバックオフィスを抱えることはできたが、今のように売上が低下傾向にあれば当然、固定費が重くのしかかる。
百貨店の発展は、人口増加とともに経済が成長し、国民の生活レベルが向上する「一億総中流時代」の都市型モデルだった。
しかし、その後モータリゼーションの発達と住宅の郊外化が進み、現在ではECが整備され、人口の減少も進行している。
この局面では、「小売の雄」と呼ばれていたことは一旦横に置き、社会環境に合わせることが必要だろう。
しかし残念ながら、1991年をピークに減少を続ける百貨店売上高(図表2)は、高度成長期からバブル時代における成功モデルを継続する現状維持バイアスに捕らわれた典型例に見える。
この続きを読むにはこちらからお願いします(会員登録無料です)
↓
https://diamond-rm.net/management/498198/