ショッピングセンター(SC)の新規開業のリリースには、必ずと言っていいほど、「○○初」「新業態」などの注記が付く。
これはこれで目新しさや新規性から耳目を集めやすく一定の効果はある。
でも、その効果はどれほどあるのだろうか、仮に効果があったとしてもどれほど続くのだろうか。
今日はここをテーマにしたい。
1.地方の東京願望、新幹線の相次ぐ開通
今、多くの地方圏で都市の改造や建物の高度化が進んでいる。
どこを見てもミニ東京。
地域のアイデンティティはどこに行ったのか、と心配になるような開発が目白押しだ。
このまま行くと2030年には全国にミニ東京が多数でき上がる。
それで日本の国土作りは良いのだろうか。
長崎新幹線が開通した。
途中乗り換えが必要ではあるものの1.5時間で博多~長崎間のアクセスが可能となった。
北陸新幹線も来春福井・敦賀まで延伸される。
今後、北海道新幹線が函館から札幌まで延伸される。
高速道路も国土の隅々まで張り巡らされ、東京へのアクセスはここ数年で飛躍的に向上する。
では、上越新幹線が開通して新潟が発展したのだろうか。
瀬戸大橋ができて四国の人口は増加しているのだろうか。
今、造っている伊豆縦貫道は伊豆半島を活性化させるのだろうか。
2.アクセス向上が人の流出を生む自明
戦後、日本は東京を中心としたアクセス向上に熱心に取り組んできた。
それが経済大国日本を支えるものだと信じられてきた。
しかし、今の日本を見て欲しい。
人口は減り続け2022年1年間で55万6000人もの人口が減っている。
この数字は鳥取県に匹敵する。
要するに毎年鳥取県が無くなるに等しいスピードで人口が減っているのだ。
一方で子供も減り続け、2022年の出生数は80万人を割り、地方圏の人口減少も相当な勢いで進んでいる。
この状況を見ればこれまでの日本の国土作りは成功とは言えず、人口が減れば年金制度も厳しい局面を迎えることとなる。
ところが「新幹線は悲願だ」とそれぞれの地方都市の人々はいう。
でも東京から2.5時間で行ける金沢に支社は不要になり、博多から1.5時間で行ける長崎にも支店は不要となり、東京、博多などの大都市にますます集中する。
熊本も新幹線で博多から40分、観光に行っても宿泊は博多に戻る。
要するにアクセスを向上させればさせるほど人口は流出するのである。
3.ミニ東京化の結果が、地方と中心市街地の衰退
時は遡り江戸時代、300年の平穏な時代は、各藩で独自の文化を育み、歌舞伎や能やお茶や日本画や多くの芸能を生み出した。
ところが明治維新後、鉄道建設が進み、中心市街地から離れた場所に駅ができることで街の中心は動いた。
結果、中心市街地は衰退し、駅前にミニ東京が建設された結果が、地方の衰退と人口減少と少子高齢化に苦しむ今の日本である。
この国土作りに並行したのが、東京からの企業誘致だ。
公団など公的セクターを中心に野山を切り開き工業団地や産業団地を作り企業誘致に動く。
最近では海外からの工場誘致も始まった。では、この結果は今、どのようになっているのか、冷静に見れば自明だろう。
ボーイング、マイクロソフト、アマゾン、スターバックスなど世界企業を生んだ米国シアトル。
ここは企業誘致ではなく、そこから企業や産業が生まれている。
なぜ、日本ではそれができないのか、そして、そのことが地方都市の目指す方向にならないのだろうか。
4.誘致合戦と東京志向が SCを同質化に向かわせる
少し前置きが長くなったが、このような戦後の日本の動きとSCの50年間は同じ動きを辿ってきている。
東京では日本初を狙い、地方では東京から人気店を誘致することに傾注し、結果、どこのSCに行っても同じナショナルチェーンが全国隅々まで並ぶことになった。
これも一つの戦略だし、地方の顧客ニーズにも合致する。
しかし、これからの時代、ECは進展し、若者は減り続ける。
その時、これまでの東京を志向した経営を続けて行って継続するのだろうか。
高速道路を撤去したポートランドのようにアクセスなど気にせず、そこから発信することはできないのだろうか。
情報などいくらでも発信できる社会だから地方から思考し地方から発信し地方から産業を生む発想に転換する時代に入ったのだと思う。
全国のSCのテナント区画の合計は16万区画。現実問題として、東京を向いてこの数を今後も埋め続けられるのか。
今一度、国土計画の失敗と合わせて考える時に来ている。